今回は鷲田小彌太著『書物の快楽』について書いていきたいと思います。
内容
好きなだけでは済まされない書評のスピリット。
これこそ読書の醍醐味。
書評を中心とする評論活動を精力的にこなす異才の哲学者による書評集。
好きなだけでは済まされない書評のスピリット、
読書の醍醐味を存分に伝える「書く」楽しみにつながる「読む」楽しみ。
感想
この本が刊行されたのは1993年で、この本には
それよりも前(昭和の終わりから平成の初め頃)に世に出た書評が収録されています。
平成最初のベストセラー作家は吉本ばななさんでした。
平成元年のフィクション部門で、
1位の『TUGUMI』、2位の『キッチン』と上位を独占し、文壇を席巻したのです。
そんな吉本ばななさんの作品に対する書評が、この本の中に収録されています。
書評というよりはどちらかというと「吉本ばなな論」という感じなのですが、
吉本さんの父である思想家・吉本隆明さんの考えを通して吉本ばなな作品を読み解く様は、
哲学者であり書評家である著者の本領発揮とも言える鮮やかさがあります。
この本の中で「書評だけで暮らせたら」と書いているように、
著者は書評を仕事の中心に置いて(置きたいと考えて)きました。
そんな著者が世に広く知られることになった
『大学教授になる方法』が刊行されたのは1991年で、
この本はまさに著者にとって一番脂の乗った時期に書かれた書評が収録されているのです。
平成の最後に、
平成の初め頃に世に出た書評を通して、
平成の初め頃に出された書物の息吹を感じるというのは、
まさに「書物の快楽」なのではないでしょうか。
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